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第1回 いじめって?第2回 子どもをいじめないで!
第3回 おちょくる第4回 SNSの被害
 
第1回 いじめって?
 
ここ数年、いじめられることに悩んで自殺する子どもが後を絶ちません。そのことで学校や教育委員会では、第三者委員会などを立ち上げていじめのあるなしを検討。1年後に、「いじめはなかった」と結論を出すところもありました。
そんな時に、私は、そのお子さんは2度殺されたも同じだ、と思ったものです。
報道によりますとそこでは、自殺の原因は、心身症・うつ病・自律神経失調症…によるものではないか?といった意見が出されたとのこと。
精神医学的に見たらそうした病名(レッテル)をつけることはできるでしょう。しかし、私たち精神科医は、治療につなげるものとして診断をします。
自死した子どもたちの多くは、いじめが辛い、と書き残しています。これが原因で心身のエネルギーを失って、安らかになるためには死ぬしかない、と考えてしまったのでしょう。
この切実な声をなぜ尊重しないのでしょう。

私は、1970年〜1990年まで神奈川県立こども医療センターに勤務していました。当時もいじめは大きな問題でした。その後30年以上経った現在、いじめはどんどんエスカレートしていて、それに対処する社会、大人たちの力は弱く、こどもを守ることができないでいます。いじめへの理解は混乱していて、今やいじめを超えて犯罪になっていることが多いのが実情です。

国のいじめ防止対策協議会は、いじめを次のように定義しています。
「一定の関係にある子供が行う心理的または物理的な影響を与える行為で、当該の子供が心身の苦痛を感じているもの」
私は、これを簡単に”その子どもがされて嫌だと思う・感じる行為”とします。ほかの子どもにとっては大したことのないことでも、その子が辛いこと、をしてはいけないのです。

ある小学1年生の子どもの話です。休み時間にA君がB君に意地悪をしました。B君が担任に訴えると、その担任はすぐにクラス討論を始めました。B君は自分の辛い気持ちを話し、みんなもいろいろな意見を述べました。子どもたちの最後の意見は、今回は許すけど、次にやったら許さない、というものでした。素晴らしい担任です。話してくれた子どもの誇らしそうな表情は、私の胸に焼きついています。いじめへの対処は、速やかに、断固として、その事実に向き合うことが大切なのです。対処法を、英語の5W1Hを使って整理します。

* What : 何が起きているのか?
* Who : 誰がやったのか?誰が関わっているのか?
* Where : 何処でなされているのか?
* When : いつから始まり、どのような時間に行われているのか?
* Why : 何かきっかけがあるのか?
* How : 個人的なものか、特定のグループ・集団によるものか?

いじめられている子どもの心に寄り添って話を聞いていくと、これらのことはすぐに明らかになるでしょう。
「そんなつまらないことを気にするな」とか「負けずにやり返せ」・「お前も何かいけないことをしたのではないか?」といった言葉をかけて、お子さんを追い込んでしまっていることも多いのです。
いじめは、いじめる側の人間の心の闇がさせることで、100%その行為は許し難いことなのです。このことをしっかりと心に留めておかないと、いじめられている人を助けられません。

C君は、「臭い」と言われていじめられて、毎晩1時間以上もシャワーを浴びて、皮膚が真っ赤になる程洗ってるとのこと。
私は彼に言いました。”君は悪くない。臭くなんかないです。いじめる子はあなたの心を潰す言葉を選んでいるのです。臭いから臭いと云うのではなく、あなたが気に病んで辛くなる言葉を使うのです。”
ここにいじめの本質があります。仲間はずれ・シカト・臭い・バイキン・放射能…などの行為・言葉は、その人の存在感、自尊感情、プライドを深く傷つけるものです。
当然、深く傷つけば生きていく価値を見失います。
自死しかないのです。これが、いじめによる自殺の原因です。

いじめが発覚したら、即クラス討論、職員室での会議を持つことです。
両親も参加しての話し合いも必要です。
5W1Hがはっきりしたら、断固いじめは許さないと申しわたすことです。
長いものに巻かれろ式の大人たちの弱腰をしばしば目にします。逃げずに断固向き合うことです。安心した場を作れないなら、やっている子どもを停学にしたらいい。
いじめられているお子さんの親御さん、「そんな学校に行かなくていい」と伝えて、家であたたかく見守ってあげてください。
あなたがそこに生きていることが大事だと、無条件に存在していることの大切さを伝えることです。このメッセージがおへそに届けば、自死は防げるでしょう。

以上は、緊急の対処として大切なことです。火事はボヤのうちに消さねばなりません。その次には、焼け跡の修復が必要です。
つまり、いじめる側の心の闇の手当が必要です。彼らもDV・ネグレクト・過剰な期待に押しつぶされて傷ついている可能性があります。
いじめられる子どもの手当て。それは、自尊感情を取り戻すこと、自分を守っていくすべを身につける手助けをすることです。
自死した子どもたちのどの子も、いじめた子どもの名前を書き残してはいません。怒りを深く押し殺して、悲しみ・無力感・もしかしたら自責感・恥で自死を選んだのかもしれません。最後まで周囲への気遣いで、自分の感情を潰していたかもしれません。自分の心の底からの声を大切に、発して良いのだと教えることです。それには、周囲の大人が信頼できる、安心して頼れるのだという態度を示すことです。

こうした子どもたちへの対処には専門家に頼る必要があるかもしれません。

子どもの成長過程では、いじめは起きるものです。大人たちが繰り返し、人の嫌がることをしてはいけないと教えていくことで、子どもたちは他人への心使いを覚えていくでしょう。
それは自分を大切にすることにも繋がっていくのです。
2017年9月吉日 
野間メンタルヘルスクリニック 故名誉院長 野間和子
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第2回 子どもをいじめないで! 
 
最近中2の男の子の自殺が報道されました。複数の教師による度重なる過剰な叱責を苦にしての自殺であったとのこと。なんと小6の時にも同じ教師から酷い扱いを受けていたと言います。何度か登校しぶりもあって、親が担任に相談をしていたにもかかわらず、学校は何も手を打っていなかったと。亡くなった後、校長は乱暴な態度で親の責任だとなじったとも報道されていました。そのお子さんは、教師が自分の話を聞いてくれないので、どうしたらいいのかわからないと嘆いていたと言います。

教師が子どもをいじめる、大人と14才の子どもという大きな力の差を考えると、これは虐待です。子どもが何か問題を起こした時には、追い詰めてひねりつぶすのではなく、どうしたら改善できるのか、オプションを示してあげるのが大人の役割です。教育の原則でしょう。プライドを傷つけて生きる気力さえ潰してしまうのは犯罪とも言えます。

複数の教師が関わっていたと言います。一人の子どもに何故このように執拗に関わっていたのか、この方達の心の闇を解明するために、彼らにカウンセリングを義務つけることが必要と考えます。そうでないなら、必ず次のターゲットを探すでしょう。また、学校には組織として、教師仲間を抑えられなかった、子どもを救えなかったことを真摯に考えて欲しいと思います。

親御様もさぞ無念なことと思います。あえて言わせていただくなら、親が担任に相談をしても解決しなかったのですから、「そんな恐ろしいところに、安心できないところに行かなくてもいい」と言ってあげることもできたでしょう。「学校は命をかけて行くところではない」と。 せっかくこの世に生まれてきた命です。親も教師も、大人たちは子どもの存在を尊重して育んで行く責任があります。いじり回して潰すのではなく、寄り添って行くことで、その子どもの本来のあり方が発揮されるでしょう。人それぞれ…このことを再確認しておきたいと思います。

どうぞ、子どもたちをいじめないで! 虐待しないでください。
野間メンタルヘルスクリニック 故名誉院長 野間和子
 76歳 精神科医
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第3回 おちょくる
 

「歩道を男女が歩いていたが、男が急に女を車道にむけて突きとばした。そこにバスが走ってきてその女性に接触。幸い女性は軽症。」数日前の新聞にこんな記事がありました。喧嘩をしていたのかじゃれていたのか分かりませんが、命を落としかねない危険なことでした。この記事を読んで、過去のいくつかの記憶が蘇ってきました。

私のクリニックは山下公園、中華街の近くにあります。観光地でいつもたくさんの人で賑わっています。時々窓から外を眺めていますと、おぞましい光景にぶつかることがあります。
仲良く肩を組んでニコニコとおしゃべりしながら歩いているカップル。突然男性の腕が女性の頭をひねり倒します。”イタイ!”女性の悲鳴。”冗談冗談!”笑いながら女性の頭を撫でる男性。あるいはまた、突然女性のふくらはぎに蹴りを入れる男性もいました。”イタイ!”と悲痛な声を上げてしゃがみこむ女性。笑いながら女性を抱き起す男性。女性は泣き笑い・・・
こうした行為を、「おちょくる」というのです。ふざけて、楽しんでいるとは見えません。見ていて嫌な気持ちになる行為です。やっている本人は冗談で楽しんでいるつもりでしょうが、明らかに暴力なのです。

ずいぶん前のことです。通勤途中の車で聞いていた育児相談の番組での話です。幼児がいて、父親が時々遊んでくれるのだけれど、必ず最後は泣かせてしまう。ありがたいので文句を言いにくいが、子供が可哀想になるのでどう対処したらいいのか?という母親からの相談でした。幼い子供がせっかく積み上げた積み木を、すごいね・・・と言いながらも、あっという間に突き崩してしまい、本人は楽しそうに大笑いをしているのだと言います。”パパもあなたが大好きなのよ、と言いきかせる”など、回答者も曖昧な返答をしていました。
これが「おちょくり」です。一見ただのお遊びのように見えますが、これは虐待につながる暴力です。被害者は心に深く傷つきます。しかし加害者の意識はあくまでもおふざけ、お楽しみなので、被害者はその辛い気持ちの持って行き場がないのです。特に幼い子どもは混乱して激しく泣くばかりでしょう。成長するにつれて、お楽しみには苦痛を伴うものと覚えるかもしれません。 大人も子どもも、これはしてはいけないことと学ぶ必要があります。
おちょくりが得意な人は、どこかこころの中に屈折したものがあることが多いのです。人間関係をうまく続けるために、自らを見つめ直すことも大切です。

野間メンタルヘルスクリニック 故名誉院長 野間和子
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第4回 SNSの被害
 

年々SNSの被害が増えているとのこと。特に中学生などの子どもが犠牲になっていて、おぞましい事件も後を絶ちません。多くの子どもたちが携帯電話やスマホを手にしていて、ゲームや様々な交流サイトを自由に駆使しているのが問題だと言われながら、なかなか改善されません。一体どうなっているのでしょうか?

経済的に豊かになって、物が溢れていて、大人も子どももそれに溺れてしまっているのではないでしょうか? 世の中の動きに逆らって、親が子どもの欲求を制限するのは難しいようです。「みんなが持っている」「みんながやっている」「うちだけダメなんて・・・」「そこまで制限されるのは、プライパシーの侵害だ」などと言われると、親はタジタジになって引いてしまうことが多いと言います。

この際改めて親の役割を考えてみましょう。

子どもの心の発達を考えると、物事の良し悪しの判断をして自分を守る力は、12歳頃までに育つといわれています。ですからこの年頃の子どもを、親やそれに代わる大人たち(例えば小学校の先生)がしっかりと見守ってやらねばなりません。守るためには、子どもとしての生活のルール、してはいけないことを教えることも必要です。この誘惑の多い世の中では、我慢を覚えさせるのは大変でしょう。上記のように、「ほかの家ではいいのに・・・」などと言われると親は弱腰になりがちです。子供を守るためと思って踏ん張ることです。

携帯電話やスマホを与えるときには、しっかり制限をつけることが親の義務です。GPSをつけるのはもちろん、アプリだけではなく使う時間や場所の制限をつけることが大事です。中学生や高校生に、「プライパシーの侵害だ」と言われると、親は弱腰になってしまうと聞きます。プライパシーは、危険が予想される場合には破ってもいいものだと覚えておいてください。親に養育されている中で、親がお金を払って与えているものですから、自信を持って親の権力を行使することです。
シアトルに住む私の友人には、中3の娘さんがいます。毎晩決めた時間に家族揃ってスマホをカゴに入れて寝室へ入るとのこと。歩きスマホがわかったら、自分の小遣いからスタバでママに500円のご馳走をする決まりを作っているとのこと。
我が家にも小学生の孫がいます。携帯電話を持たせることに抵抗がありました。しかし一人で電車で習い事などへ行くチャンスが増えて、安全のために持たせることを考えました。あれこれて調べたら、本屋さんで出している優れもののスマホを見つけました。

愛情があればこそ、子供の要求通りになんでもしてあげたいのが親心でしょう。制限のために闘うのもエネルギーのいることです。しかしこれも、大切な子供を守るため、子育ての基本と覚悟して頑張ることです。小さい時にやっておくと先は楽になるものです。

野間メンタルヘルスクリニック 故名誉院長 野間和子
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野間和子   故名誉院長 野間 和子
精神科専門医 精神保健指定医
国際TA協会認定会員・TA101インストラクター・再決断療法士

横浜市立大学医学部卒業後、横浜市立大学医学部精神医学教室に入室、その後神奈川県立こども医療センターに20年間勤務、91年横浜に「野間メンタルヘルスクリニック」を開業。
著作「子どもの精神療法」「女の子を育てる」など
 
 
 
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